東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)224号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実、審決がその理由2において認定した本願出願前日本において頒布された刊行物であると認められる第一ないし第三引用例の各記載内容、本願出願前米国において頒布された刊行物であると認められる第四引用例の記載内容、同3において認定した本願発明と第一引用例記載の発明との一致点及び相違点については当事者間に争いがないところ、原告は、右相違点について、審決が本願発明の進歩性を否定した判断を争うので、以下に原告主張の取消事由について検討する。
二 取消事由1について
1 前記のとおり、第二引用例記載の発明は、無機繊維と有機繊維を重ねてニードルパンチングをすることにより不織マツトを製造する方法に関するものであるが、なるほど成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には「本願発明は特に、非常に細い、例えば平均直径が〇・五ないし五ミクロンの無機繊維に適用し得る‥その理由はかかる細い繊維は非常に弱く従つて直接ニードルパンチングすることができないからである。」との記載(二頁右下欄一一行ないし一五行)があることが認められる。しかし、他方、前掲甲第四号証によれば、第二引用例にはその発明に関し、「ニードルパンチングにより無機繊維を合体および(または)質密化させることは、かかる無機繊維は伸長性が比較的小さくかつ脆いため困難である。しかしながら、無機繊維のニードル処理されたパツト類は非常に望ましい製品である。かかる製品においては、例えば離層性を減少させることができかつ、種々の用途に対応してかかるパツトの密度を変化させ得る」との記載(一頁左下欄一九行ないし右上欄七行)があることが認められる。この記載によれば、第二引用例の発明は、無機繊維にニードルパンチングを施してパツト類の望ましい製品を得ることを技術的課題としているものであつて、ニードルパンチングによる無機繊維のみの集積体を得ることが今後とも不可能であるとするものではなく、前掲甲第四号証によつて認められる第二引用例の特許請求の範囲の記載(その内容は請求の原因四、1、(一)のとおり)によれば、不織無機繊維マツト上に同マツトより薄い不織有機繊維ウエブを積層してニードルパンチングを施しているところからみて、同引用例記載の発明は、右の技術的課題実現のための過程における一つの方法を提供したものということができるのである。いずれにせよ第二引用例記載の発明は、無機繊維に有機繊維を積層するとはいえ、無機繊維にニードルパンチングが可能であることを開示するものであり、前掲甲第四号証によれば、第二引用例の不織マツト製造に用いられる無機繊維としてセラミツクフアイバーの範疇に属するアルミノシリケート繊維が例示されていることが認められる。
次に、前記のとおり、第三引用例には、シート状無機繊維集束体にニードルパンチングを施すことが記載されており、成立に争いのない甲第五号証によれば、第三引用例にはその発明の実施例として繊維径二ないし一〇ミクロンのロツクウール及び繊維径二ないし一〇ミクロンのグラスウールからなる無機繊維集束体についてニードルパンチングを施すことが記載(三頁左下欄一六行以下、五頁右欄四ないし五行)されていることが認められる。
しかして、前掲甲第四、第五号証、成立に争いのない甲第二号証の一、二によれば、不織の繊維の層状集積体にニードルパンチングを施せば、集積体内部で繊維が針に形成されたとげによつて厚さ方向に引入れられて相互にからみ合い、引張強度及び離層性の改善された層状集積体を得ることができることが認められるから、前記第二及び第三引用例における技術思想と代表的な無機繊維であるセラミツクフアイバー層状集積体にニードルパンチングを施すことに関する本願発明における技術思想との間には共通性がみられるのであり、第二及び第三引用例記載の技術内容を本願発明における進歩性の判断資料とすることはなんら不合理なことではないものというべきである。
2 前記のとおり、第一引用例には鉱物材料であるカオリンからなる繊維(本願発明におけるセラミツクフアイバーに同じ)を減摩処理して機械的に固め、パツド又はブランケツトとなし、しかる後加熱炉中で加圧下で減摩剤を熱により繊維から除去することが記載されており、成立に争いのない甲第三号証によれば、右の「機械的に固める」手段として、具体的には、刻印装置又は押圧ロールが用いられていることが記載(一頁右欄一五行ないし一九行、二七行ないし二九行)されていることが認められる。そして、後に述べる第四引用例に記載されたニードルパンチングにおける減摩剤の効用が本願出願当時公知であつたから、セラミツクフアイバー層状集積体に減摩剤を含有せしめたうえ、本願発明と技術思想を共通にする第二及び第三引用例におけるニードルパンチングによる手段を、第一引用例記載の技術における「減摩剤処理して機械的に固める」手段に代わるものとして採用することは格別困難なことではないというべきである(成立に争いのない甲第七ないし第一一号証も右の判断を覆えすものではない。)。
したがつて、取消事由1は理由がない。
三 取消事由2について
1 第四引用例の記載内容を更に検討すると、成立に争いのない甲第六号証によれば、第四引用例記載の発明は、合成繊維又は天然繊維よりなるテキスタイルフアブリツクをニードルパンチングするに当たり、ニードリング液(好ましくは界面活性剤もしくはシツクナー又はその双方を含む水溶液)即ち減摩剤を施す技術に関するもので、減摩剤により繊維相互間及び繊維と針との間の滑りがよくなり、一層ニードルパンチングが効果的に行えるものであることが認められる。
2 ところで、前掲甲第二号証の一、第四号証によれば、セラミツクフアイバーのような無機繊維は合成繊維又は天然繊維に比し伸長性が比較的少なく、かつ脆いためニードルパンチングによる効果が低いことが認められるが、前記二1に認定したニードルパンチングの機構から考えると、減摩剤を付与した場合における繊維及び針に対する作用自体は繊維が有機繊維であろうとセラミツクフアイバーであろうと変りはないものということができる。したがつてセラミツクフアイバーにニードルパンチングを施すに当たり、減摩剤を付与することにより繊維相互間及び繊維と針の間の滑りをよくすることができるということは、当業者が当然予測し得るものというべきである。
そうであれば、本願発明において、セラミツクフアイバーのみからなる層状集積体をニードルパンチングするに際して、あらかじめ減摩剤を付与した場合の効果は、第四引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に予測し得るところである。
したがつて、取消事由2は理由がない。
四 取消事由3について
1 前記二、1に認定したように、一般に不織の繊維にニードルパンチングを施せば離層性及び引張強度が改善されるのであり、そのことは、ニードルパンチングの方法を採用することによつて奏される当然の効果として当業者の予測し得るところである。したがつて、原告がニードルパンチングの方法を施したことにより第一引用例記載の発明と対比してすぐれていると主張する本願発明の効果は、格別顕著なものということはできない。
2 また、前記二、1に認定したように、繊維の層状集積体にニードルパンチングを施せば、針に形成されたとげによつて繊維が厚さ方向に引入れられ、繊維のからみ合いが増えるのであるから、その状態で集積体が膨張しないように加圧しながら減摩剤を除去すれば、集積体は繊維のからみ合つたままの状態で固定されることは明らかである。したがつて、ニードルパンチングを施さずに単に圧縮したにすぎない第一引用例記載の発明に比し、ニードルパンチングと圧縮の両工程を採用した本願発明における引張強度が向上したとしても、そのことは当業者として当然予測し得ることというべきである。
よつて、取消事由3も理由がない。
五 以上のとおりで、原告主張の取消事由はいずれも理由がないから、本件審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
減摩剤を含有せしめたセラミツクフアイバー層状集積体にニードルパンチングを施しその後加圧状態で減摩剤を 除去することを特徴とするセラミツクフアイバー層状集積体の処理法。